前回の記事で、数学の中にある「数の世界」「図形の世界」とは別に「ベクトルの世界」があること、そしてそのベクトルを用いることで、図形の問題をまるで数の計算問題のように解くことができること、をお伝えしました。今回の記事はその続きです。
- 勉強してもベクトルがなかなか解けるようにならない人
- ちょうどベクトルを習い始めた人
郷に入れば郷に従え。ベクトルの世界では・・・
もったいつけないで、早く次の”ベクトルのツボ”を教えて下さいよ。3つあるうち、まだ1つしか聞いてないっすよー。
ごめんごめん。では早速・・・シンジ君は「郷に入れば郷に従え」ということわざは知ってるかな?
知ってるっすよ。あれでしょう・・・えーと・・・その土地に行ったら、その土地のルールに従え・・・みたいな
うん、そうだね。国とか地域とかグループとか、いろいろな集団によって独特のルールがある場合が多い。そのため、そこに行ったときはそこのルールを尊重して行動したほうがいい、という先人の知恵だよね。
ふむふむ。
このことわざは、ベクトルの世界にも当てはまるんだよ。つまり、「ベクトルの世界に入れば、ベクトルのルールに従え」ということだね。
ベクトルのルールって、公式のことっすか? それなら一応知ってるっすけど。
まあそうだね。公式と定義を合わせれば、ベクトルのルールと言っていいだろう。そのベクトルのルールについて、本当に”知っている”かな?
えっ。知ってるつもりっスけど・・・あらためてそう言われると・・・
では知っているかどうか、確認してみようか。 以下の式などは、すべて間違っています。何が間違ってるか、わかるかな?
- \( \quad |\vec{a}|=2,~|\vec{b}|=3~ \)のとき,\(~ \vec{a}+\vec{b}=5 \)
- \( \quad \vec{a}=\vec{b}~ \)のとき, \(~\vec{a}-\vec{b}=0 \)
- \( \quad \vec{a}\cdot \vec{b}=1~ \)のとき, \(~\vec{b}=\frac{1}{\vec{a}} \)
- \( \quad \vec{a}\cdot \vec{b}=\vec{a}\times \vec{b} \)
間違ってるんスか?えー、何かそれっぽいので、教科書に載っていたらスルーしちゃいそうですけど。
ははは。確かにそれっぽいよね。でも絶対に教科書には載らない。なぜなら、そもそも間違っているものばかりだからです。順番に説明していきましょう。
ベクトルは”ベクトル”であって”数値”ではない
\( 1. \)と\( 2. \)は一緒に説明しましょう。
ベクトルとは、”向き”と”大きさ”を持っています。”大きさ”は数値だといっていいでしょう。つまり、ベクトル\( ~\vec{a}~ \) の大きさが\( ~2~ \)であれば、\( |\vec{a} | =2~ \)というふうに表します。これは、数値についての式です。
では\( 1. \) の式はどうでしょうか。
左辺は\( ~\vec{a}+\vec{b}~ \)ですので、これは「ベクトルの和」ですから”ベクトル”のはずです。
ところが右辺は\(~5~\)とありますので、これは数値でしょう。ベクトルと数値をイコールで結ぶなんて、おかしいですよね?
これは、\( \vec{a}~ \)と\(~ |\vec{a}| ~\)を明確に区別していないことによる間違いです。\( \vec{a} ~\)はベクトルですが、\( |\vec{a}| ~\)はベクトルではなく数値です。
\( 2. \)についても同様です。
左辺は\( ~\vec{a}-\vec{b}~ \)ですので、これは「ベクトルの差」であり”ベクトル”です。
ところが右辺は\( ~0~ \)ですから数値です。ここはゼロベクトル\( ~\vec{0}~ \)を使わなければなりません。つまり、 \[ \vec{a}-\vec{b} =\vec{0} \] と書いておけば正解です。
ベクトルと数値、曖昧にしていた人はしっかりと違いを確認しましょう。
内積は、”内積”であって”掛け算”ではない
まず\( 3. \)から。
内積を掛け算だと思っている人がいます。
そんな人は、「数の世界」で「\( ab=1 \)のとき,\(~b=\frac{1}{a} \)」としたのと同じように、ベクトルについても計算できる、と勘違いしているようです。内積を”掛け算”だと勘違いしているので、両辺をベクトルで割っているのです。
「数の世界」では数について「足し算・引き算・掛け算・割り算」と4つの基本計算がありました(いわゆる和差積商の四則演算)。
しかし「ベクトルの世界」ではベクトルについて「足し算・引き算」の2つだけです。掛け算とわり算は存在しません。
よく、以下の公式から、内積は掛け算だと思いこんでいる人がいます。 \[ \vec{a} \cdot ( \vec{b}+ \vec{c} ) =\vec{a} \cdot \vec{b} + \vec{a} \cdot \vec{b} \] これは、「ベクトルの世界」の内積において分配法則が成り立っている、というだけです。
「数の世界」の掛け算においても分配法則\(~ a(b+c)=ab+ac~ \)が成り立っているのですが、だからといって内積と掛け算が同じだということにはならないのです。
「ベクトルの世界」と「数の世界」には、それぞれ別のルールが存在しているのです。
次に\( 4. \)について。
数の計算において「\( 3 \)かける\( a \)」のことを「\(3 \cdot a \)」「\(3 \times a \)」「\(3a \)」と表せることから、内積についても「\( \vec{a} \cdot \vec{b} \)」「\( \vec{a} \times \vec{b} \)」「\( \vec{a}\vec{b} \)」と表せる、と思っている人がいます。
しかし、全く違います。
ベクトルの世界では、「\( \vec{a} \cdot \vec{b} \)」は”内積”であり、数値です。しかし、「\( \vec{a} \times \vec{b} \)」「\( \vec{a}\vec{b} \)」は定義されておらず、教科書には載っていません。
「\( \vec{a} \times \vec{b} \)」は高校数学では定義されていませんが、大学では”外積”というベクトルして定義されています。
「+」「ー」「・」「=」などは見慣れた記号です。しかし、「数の世界」で使われるときの意味と、「ベクトルの世界」で使われるときの意味は、似ているところもありますがやっぱり違うのです。
あらためて、「ベクトルの世界」の計算方法であることを意識して、しっかりと学び直しましょう。
「数の世界」とは違う、「ベクトルの世界」のルールを再確認しよう
なるほど・・・「数の世界」と「ベクトルの世界」では、使っている記号は同じでも、ルールは違うってことっスね?意識したことなかったなあ。
シンジ君のように、ルールの違いを意識していない人は多いと思うよ。だからこそ、ヘンなミスをしてしまったり、問題が解けても何だかモヤモヤとしてしまうのだと思う。明確に、違うルールを学んでいることを意識してみてはどうかな?きっとベクトルの理解が深まると思うよ。
・・・ああ、だからわざわざ「ベクトルの世界」と大げさな名前をつけたんっスね。これまで勉強してきた「数の世界」との違いを際だたせるために。やるっすね!独学サポートコーチ長宮慶次!
うーん・・・何だか馬鹿にされているような・・・
この記事のまとめ
- 「数の世界」と「ベクトルの世界」では、同じ記号が使われていても、別のルールが存在していると考えましょう。
- あらためて、「ベクトルの世界」のルールを自分が理解しているかどうか、確認してみましょう